一般に起業の成功確率はどの程度かといえば、一年以内に約三割、三年以内に約五割が廃業に追い込まれ、十年後も存続している会社は約一割とされる。

若者世代の起業は、いくらでもやり直しできるが、六十歳を過ぎての定年世代はそうはいかない。

失敗したときのダメージは大きく、下手をすれば、悲惨な晩年が待っている。

にもかかわらず、定年世代は意外と無謀なところがある。

なまじ会社経験が長く、それなりのポストで人もお金も動かしてきたものだから、最初から大きなビジネスをやろうとするケースが少なくないのだ。

会社で大きな事業を手がけることができたのは、会社の人材、資材、設備など経営資源あってのことなのに、すべて自分の実力だと勘違いしている人があまりにも多い。

 

定年起業で成功しようと思ったら、以下の五つのポイントは必須である。

 

①起業の目的を明確にする

自分はこういう事業をしてみたい、だから自分の会社をつくりたい。

会社を始めるからには明確な動機づけが不可欠だ。

その点、会社への不満を起業で解消しようとする人は要注意。

「会社を辞めたい」が先に立ち、肝心の「何をやるか」が後づけになりがちだからだ。

メディアの離す起業情報などを見て「ネット通販でもやろうか」とか「環境ビジネスでもやろうか」などと安易に道を求めるのは、たいていこのタイプだ。

内側から沸き立つ「これがしたい!」という強い願望がなかったら、絶対に会社経営は成功しない。

希薄な動機で成功できるほど商売は甘くない。

 

②過去の肩書きを捨てる

定年世代で起業する人は、会社でそれなりの地位や収入を得ている。

起業したら、そうした過去の肩書きは、きれいさっぱり捨てることだ。

名の知れた大企業で部下が何十人、何百人いたとしても、会社を辞めれば、ただの人だ。

会社をつくって社長の名刺を手にしたところで、社員は二、三人。

顧客や取引先も個人や中小の会社がほとんどだろう。

 

書きを捨てられない人は、その違いに気つかず、つい「上から目線」で商売をしてしまう。

これでは商談だってうまくいかないし、「あの社長、何か勘違いしていないか」とあきれられるだけだろう。

ときには「そこを曲げて何とか」と無理を承知で頭を下げなければいけないのが商売だ。

それができない人に会社経営は無理である。

 

③経営者向きか、自ら冷静に判断する

経営者になるには向き不向きがある。

定年まで勤め上げる人は、基本的には会社勤めが向いていた人だろう。

会社を興す人は定年前に独立起業するケースが多い。

経営者に必要な資質は数え上げたらきりがない。

たとえば、旺盛な独立心や実行力。

常に前向きな発想力や行動力。

社員を奮い立たせる勇気、統率力、責任感。

事業を活性化させる鋭い先見性、洞察力、直観力、あるいは野心的な創造力、構想力。

それらを支える慎重さ、人脈、情報収集能力、金銭、時間、健康などの自己管理能力。

しかし何か一つだけあげろと言われたら、私は躊躇なく「信用」をあげる。

まがいものを売らない、嘘をつかない、約束を守る、納期を厳守する、何事にも誠実に対応する。

商いは「飽きない」とも言われるように長期的な信用こそ第一なのだ。

 

④「やりたいこと」と「やれること」の違いを知る

いくらいいアイデアがあっても、それを実現するだけの能力(=知識、経験、スキル、資格、人脈、資金など)がなければ、商売は成り立たない。

自分にはどんな能力があるのか、一度、これまでの人生を棚卸しして、それらを整理するといい。

この作業をすると、そもそも自分には何ができるのか、ある程度のことが見えてくる「やりたいこと」と「やれること」は違う。

いくらラーメン通でも、それだけで商売にできるほど世間は甘くない。

メジャーの大打者テッド・ウイリアムズは大の釣り好きで、引退後、釣り具会社を興した。

当初は順調だったが、結局、大手デパートに買収されてしまった。

趣味を実益に変えられるのは、ほんのひと握りの商才に長けた人だけだ。

稀有な成功例を見て「あれならオレにもできる」などと思ったら大間違いなのだ。

趣味は商売にした途端、楽しめなくなる

趣味は趣味のままにしておいたほうがいい。

しっかりした事業プランを作る

「徒花に実はならぬ」という。

見栄えばかり気にして格好のいい事業プランを立てても、それが現実離れしたものなら、破綻は目に見えている。

何を売るのか、誰に売るのか、お金はどうするのか。

商売を始めるには念入りな準備が不可欠だ。

ときには専門のスクールに通ったり、お目当ての業界に再就して知識やスキルを身につけることも必要だろう。

一般に五十歳代で脱サラ起業して成功する人は四十歳代から準備しているという。

起業したいなら現役時代から周到に準備をしておくことだ。

無理のない資金計画(開業資金と運転資金)も重要になる。

借入金で事業を立ち上げる場合は慎重の上にも慎重に。

失敗しても何とかなるのはせいぜい数百万円までだ。

自宅を担保に入れ個人保証をして借金しないと始められないような事業は基本的にお勧めしない。

見栄を張らずに身の丈に合った商売を心がけるべきである。