「ここだけの話だが・・・」

という話が、本当にここだけですむことは、まずない。

それは断言してもいい。

Aさんが、社内で親しいBさんに、

「おいここだけの話にしておいてもらいたいんだが、じつは・・・」

と内緒の話をしたとしょう。

Bさんは、話を聞きたいから、「わかった」と請け合うのだが、しばらくすると、AさんはCさんがその話を知っているのを知って驚く。

「おい、あの話は内緒にしてくれっていったろ?」

とBにいうと、

「ああ、Cのことね。Cならだいじょうぶだよ。あいつは信用できる男だからね」

と別に約束を破ったとも、悪いことをしたとも、何も感じていないようだ。

しかし、いまさらそんなことをいっても手遅れなので、あきらめの境地に入る。

 

ところが、そのうちDさんもその話を知っていることが判明する。

DさんはCさんと親しいので、おそらく、CさんがDさんに話したのだろう。

しかも、腹が立つことには、AさんにとってDさんは、社内でときたま顔を見かけるぐらいの間柄。

Aさんは、当然、「Bのおしゃべりめ!」と憤慨(ふんがい:ひどく腹を立てること)するだろうが、この場合、一番の責任はBさんにあるのではない。

そもそも、最初にしゃべったAさんが悪いのである。

 

本当に秘密にしなければならない話は、自分だけの胸にとどめておくべきだ。

それができないときは、話す相手をよくよく見極めるしかない。

Aさんの本心には、自分が「こんな秘密を知っている」ことをひけらかしたい、という気持ちがあった。

その秘密が、みんなの前に明らかになるときがきたら、「おれは前から知ってたんだぜ」といいたかった。

Bさんはその証人に選ばれたのである。

 

しかし、秘密が明らかにされる前にみんなが知ってしまったのでは、今度は逆に、それをもらした自分の責任が重くなる。

そこでBさんを恨む。

「Bさえ黙っていてくれれば・・・」

しかし、それは虫がよすぎる。

やはり、秘密を守るべきは、自分自身、たったひとりの責任とわきまえるべきである。