胡麻は小さな巨人

仙人は胡麻を食べているという言い伝えが中国にある。

山に迷い込んだ人が、谷川で胡麻飯の残りがついた茶碗が流れてきたのを見て、その谷川をさかのぼっていったところ、桃源郷にたどり着いたという。

また、「アラビアンナイト」にも、盗賊が財宝を隠していた岩穴の岩戸を開けるのに、「開け胡麻」という呪文を唱えた話があるなど、胡麻に関する話は多い。

 

このように、世界各地で昔からその大きな力が知られていたと思われる胡麻は、日本でも古くから重要な食品の一つとして食べられてきた。

名前からも分かるように胡麻は、胡(中国の万里の長城より西の方に住んでいた民族) から入ってきた麻の実に似た種子である。

原産地はアフリカのサバンナ地帯といわれている。

アフリカでは、種子から胡麻油をしぼるだけでなく、葉も食用にしてきたようだ。

胡麻の栽培の歴史は古く、紀元前1300年頃には、ギリシアでつくられていたという。

日本には中国から渡来し、いったん定着すると、なくてはならない食品になった。

奈良時代、すでに胡麻は日本でかなり栽培され、油は燈明油として重要なものだったし、食用にもされていたという。

 

ハレの日の赤飯に黒胡麻を振ったり、寺の精進料理に胡麻豆腐が欠かせないのも、胡麻は栄養価が高いということが知られていたからであろう。

インドでは、胡麻油が薬としても使われていたことが、インドの医書に記録されている。

胡麻の成分でもっとも多いのは脂質で、胡麻の50%以上を占める。

次に多いのがタンパク質で、20%程度含まれる。

他に、カルシウムや鉄が多い。

さらに、脂質の内容だが、オレイン酸が40%弱、リノール酸が40%強含まれている。

オレイン酸というのは、一つだけ不飽和の部分のある脂肪酸で、不飽和脂肪酸の中でも大変安定している。

飽和脂肪酸と違って体内にたまりにくく、肥満につながらないのでおすすめできる。

 

胡麻油は他の植物油と違って酸化しにくいが、それは、オレイン酸が多いためと、さらに、それだけではなく、胡麻には酸化を防止する成分も含まれているからだ。

 

その成分とは、セサミン、セサモリン、セサミノールといった強力な酸化防止物質である。

この、セサミン、セサモリン、セサミノールは、胡麻独特の成分である。

胡麻は英語でセサミというが、そこからとった物質名である。

このセサミン、セサモリン、セサミノールは、最近研究が進み、人体内でも強力な酸化防止効果があり、脂質が体内で酸化することによる老化や発ガンに対して、大きな防御作用のあることが判明している。

 

人体内で脂質が酸化するということには、リノール酸の作用が大きい。

リノール酸は必須脂肪酸である半面、酸化防止物質がともにないときは、それ自身が酸化して、過酸化脂質となる。

そしてアミノ酸と反応して老化物質をつくったり、細胞の遺伝子に傷をつけ、ガンの原因になったりする。

リノール酸を多く含むのは、ベニバナ油、大豆油、コーン油、綿実油などである。

だから、胡麻を食事の中に取り入れることで、脂肪の体内酸化が防げ、健康が保たれるのである。