初対面では、よく、出身県や出身校、また、勤め先などを聞かれることがある。
これは互いの共通点を探し出して人間関係の絆を築いていこうということからくる行動だ。
ここで謙譲の美徳を発揮するのもいいが、それが度を越すとあまりいい印象を与えないことがある。
「どこにお勤めでしょうか?」という質問を初対面の人からされた経験がある人は多いことだろうが、そうしたとき、「いや、つまらない小さな会社でして」と弁解するような口調でヘりくだって答えるのは、相手にあまりいい印象を与えないとされている。
「なんだ、この人は。自分でも言えないくらい、たいした会社には勤めていないのか」と思われてしまうことが多いのだ。
あるいは、「この人は自分の勤め先について、何かこだわりや不満があったり、人に誇れない仕事をしているのだろうか」などと、痛くもない腹を探られてしまうこともある。
もちろん、あまり有名でない会社に勤めている人は、何かと肩身の狭い思いをしていることだろう。
しかし、たとえ無名の零細企業にいたとしても、そのことを恥と思うことはないのではないか。
しかも、人に向かって、そんな会社にいることをさも恥ずかしそうに告げるのは、もっとよくない。
こんなときには、むしろ堂々と胸を張って、「はい、○○会社におります」とはっきり言ったほうが、聞いたほうとしては高い好感度を持つはずである。
勤め先の会社が持つ社会的なイメージを、そのままストレートに本人のイメージと重ねる人もいるが、そうでない人も多い。
心ある人なら、むしろ背負っている看板よりも、目の前にいる本人がどうであるかということのほうを重要視することだろう。
自分の仕事を情熱を持ってこなしているという雰囲気が伝われば、会社の看板などどうであってもいいのである。
人間関係をとりむすぶためには、謙譲の精神は必要だが、それが行き過ぎて卑下(ひげ)に見えるようであれば、逆に悪印象を相手に植えつける結果に終わりかねないのだ。
それと、私としては、どちらかといえば初対面の人に勤め先を聞くより、
「どういうお仕事をなさっていますか?」
と聞くほうがいいと思う。
「保険の仕事です」とか「編集者です」と言うほうが、会社名を言うより答えやすいことはたしかだ。
しかし、イギリス人に言わせると、日本人は「どんな仕事をしてますか?」と聞くと、ほとんどの人は「トヨタに勤めています」とか「ソニーです」と会社名を答えるそうだ。
こういうとき、彼らは次にどういう質問をしていいか困るそうだ。