体力を消耗したときヨモギが効くのはなぜか
ヨモギは古くから草餅の材料として全国的に用いられてきた野草である。
たとえば、田植えの終わった後で、小豆あんが入ったヨモギ団子を食べる地方や、春になるとヨモギの葉を使った草団子や草餅などをつくる地方が多い。
ところで、田植えの後にヨモギ団子を食べるのには、それなりの意味があるようだ。
田植え作業は肉体的にハードで、しかも一時期に集中するため忙しく、十分に食事をとることができない。
そのため田植えの時期には、農家の人は体力的にかなり消耗する。
自動田植え機などを使う現代とはくらべものにならないほど労働が激しかったのだ。
体力を消耗し、しかも十分な栄養が補給できなかった昔、まっ先に不足したのは、各種のビタミン、そして、タンパク質などである。
このとき、よい香りをもつとともに、その成分に各種の有用なものが含まれているヨモギは便利であった。
ヨモギの葉には、ビタミンA、ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンC、ビタミンE、葉緑素、食物繊維、たんぱく質、カルシウム、鉄、β‐カロテン、葉酸などの健康成分がバランス良く含まれています。
とくに新鮮な野菜を食べられないと、ビタミンAのもとになるベータ・カロチンが不足してくるが、これもヨモギの中に含まれるカロチンによって補給できる。
ビタミンAが不足すると、回虫などの寄生虫が消化器の中で繁殖しやすいといった研究がある。
下肥を使用していた時代には、体力が低下したときに回虫などの寄生虫が消化器の中で勢力を得ることが多かった。
こういったときに、ヨモギのような駆虫成分を含むものを混ぜた団子を食べることは回虫駆除にも大きな力があったわけだ。
沖縄ではヨモギをフーチバーと呼び、年間を通して料理に使用している。
たとえば、ヤギの料理にはヨモギを使うが、匂い消しとともに毒消しとしても大切なものである。
また、フーチバージューシーといってヨモギを加えた雑炊も沖縄の伝統料理の一つである。
さらに、灸をすえる場合に用いるモグサは、ヨモギの葉からつくられる。
これはヨモギの葉の裏にある、やわらかい羽毛状の繊維を取り出したものである。
このようにヨモギには意外な効果がたくさんあるのだ。
ところで、ヨモギはキク科植物である。
キク科植物には、いろいろ有用な成分を含むものが多い。
たとえば、以前、蚊取り線香の主材料として用いられていた除虫菊などもキク科植物の一種である。
除虫菊の中にはピレトリンと呼ばれる、蚊に対して防虫、殺虫効果のある成分が含まれている。
これをいぶすことで、蚊を除去することが可能である。
そのために、過去には除虫菊が大量に栽培され、それを原料として蚊取り線香が多量につくられていた。
もっとも、現在ではこのピレトリンは化学合成ができるので、除虫菊の栽培はほとんど行なわれていない。