「好意を示せば愛される」という人間関係の法則

もう一つ考えておくべき大切なことがある。

それは、あなたがある人間を嫌う場合、じつはあなた自身がそのいやな部分をもっているということだ。

要するに、自分自身が自己嫌悪して抑圧してしまったものを、相手がぬけぬけとぶらさげているので、腹が立つわけだ。

これはいい換えると、自分が嫌う相手はほかならぬ自分自身のネガであって、近親憎悪をしていることになる。

相手と自分はコインの裏表だ。

人間は自分の姿を他人という鏡で映してはじめて自分の真の姿を知る。

だから、ある人間が嫌いだというときは、相手の責任を追及するよりも先に、自分の側にある『相手を嫌う原因』を探してみることが必要だ。

もちろん相手には「私はあなたを嫌っている」という内心をあからさまに態度で表わすのは厳禁だ。

 

人間は不思議なもので、相手から嫌われていると感じると、たとえその人になんの悪感情を抱いていなくても、その人を避けるようになる。

反対に、相手から少しでも好意を寄せられると、その人に悪い感情を抱かなくなる。

この『好意の寄せかた』は、そんなにおおげさに考えることはない。

アメリカのある心理学者が実験したところによると、大学の図書館にいた学生たちに前もってクッキーを配っておき、そのあと心理学の実験をしたところ、クッキーを配った人と心理学の実験をした人とが違う人間であった場合でも、クッキーをもらった学生のほうが、クッキーをもらわなかった学生よりも、快く実験に応じてくれる率が高かったそうだ。

この学者は、人間はなんとなく他人から好意を寄せられたあとでは、気持ちがおおらかになって、他人に対して寛容な気持ちになるのだといっている。

だから、人には怒りをぶつけるよりは、なんらかのかたちでつねに好意を示しておくことが、他人とのいい関係をつくりあげるコツなのである。

こうした人間の心理を知っておき、実践しておくと、職場や家庭での人づきあいは、とても気楽になるはずだ。

映画評論家の淀川長治さんは、十六蔵のときに見た映画で、「俺はなあ、嫌いなやつに今まで会ったことがねェ」

という台詞に接して感動してから、以後は決して相手を最初から嫌いだと思って接しないことにした。

この決心をすると、もし相手が失礼なことをしたり、非常に冷たい態度を示したときでも、あまり腹が立たなくなったという。

相手の言動に腹を立てるのは、相手と自分が同じレベルに立つことになる。

それよりも子供に接する親のように、相手より一段上に立って相手の顔を眺めると、相手の怒った顔に接しても微笑みたくなるような心境になるという。

「自分が相手に愛情を抱けば、きっと向こうもそれを感じてくれるはずです」と淀川さんはいう。

人づきあいがうまくいくかどうかは、自分が相手にどれだけ愛情をもって接しているかで変わっていくものなのである。

人間的魅力を育てるための第一歩は、こんなところからはじまるといえよう。