特殊な才能や能力は遺伝するのは本当なのでしょうか?
遺伝子は、さまざまな情報を親から子へと伝えます。
髪や肌、日の色や血液型、体型や体質も、遺伝の要素が強いといわれています。
また、近視が遺伝したり、血友病や赤緑色盲など、遺伝性の病気というものもあります。
では、記憶は遺伝するのでしょうか。
もしも、記憶が遺伝するとしたら、親の記憶が自分の脳にも存在するということになります。
実際に行ったことのない場所の記憶や、会ったことのない人の記憶が脳の中にあったら、なんだか不気味な気がします。
小説のテーマとしてはおもしろいかもしれませんが、実際にはそんなことはありえません。
食べ物の好みが親と同じだったり、結婚相手が親に似ていたりすると、「こんなところまで遺伝するのか」と思いがちですが、これは好みの記憶が遺伝しているのではなく、生後の生活環境が影響しているからです。
記憶は自分で蓄えていくしかありません。
両親が若いころに勉強した記憶がそっくり遺伝してくれれば、どんなに便利かと思いますが、そんなことは絶対にありえないのです。
ただ、「古い脳」といわれる大脳辺縁系(だいのうへんえんけい)が司る「本能」は、「原始の記憶」ともいわれ、遺伝する記憶といえるかもしれません。
しかし、経験や学習、五感などから得た情報を記憶とするならば、記憶はもちろん遺伝しません。
では、頭のよさというのは遺伝するのでしょうか。
政界や芸能界を見てみると、いわゆる二世といわれる人たちが活躍しています。
また、医学界も二世が多い業界の一つといわれています。
かくいう私の父親も内科医なのですが、医者の息子だから医者になれるのかといえば、そういうものではありません。
親と同じ職業に就く人というのは、能力や感性が遺伝するというよりも、環境の影響が大きいように思います。
親が政治家や芸能人の場合、テレビや新聞などのメディアを通じて親の仕事ぶりを見ることができます。
また、医者も開業医であれば、子どもは医者の仕事というものを身近で感じ取ることができるわけです。
そこではじめて、「自分も父のような仕事をしてみたい」という動機が芽生えてきます。
しかし、その後は本人の努力がなければ、その職業に就くことはむずかしいでしょう。
政治家の遺伝子や医者の遺伝子などというものは、科学的には存在しないということです。
知的能力に、遺伝的要素は40~50%というのが定説です。
ただ、音楽や絵画など、芸術的な才能に関しては、遺伝的要素が強いとする説があります。
音楽家の家系では、天才的な音楽家が育つケースがしばしばあるからです。
しかし、同じ音楽家の家庭に生まれた兄弟でも、そろって音楽家として成功するケースはまれで、必ずしも才能が遺伝するとは言い切れません。
音楽にあふれた環境では、素質を伸ばしやすいというのもあるでしょうし、この素質自体は遺伝というよりも、もって生まれた個人差であることが多いのです。