「いいところ」なんて見せなくていい

同性同士の間なら、いくらでもいろいろなことを平気で語れる人が、異性の前に出ると、とたんに言葉がしどろもどろになったりするのも慣れの問題であろう。

ことに、好意を持つ異性に対しては、自分のいい面だけを見せようと思うために、しないでもいい緊張をしてしまうから、しどろもどろになってしまうのだ。

「ところで、あの、その」とやってしまう。

多分、脈拍数も上がっていることだろう。

 

このとき覚える不安は、自己防衛本能からきている。

初めて出会ったものや、自分がまだ知らないものに対しては危険を感じる。

何が起きるかわからないからである。

そこで、危険から逃れようとして身構える。

ふつうの状態ではなくなっている。

これは人間だけでなく、あらゆる動物に共通する行動だ。

 

危険なものと戦うのは、窮鼠猫(きゅうそねこをかむ:追い詰められた鼠が猫に嚙みつくように,弱者も逃げられない窮地に追い込まれれば強者に必死の反撃をして苦しめる)を噛むという行動になるが、それはあくまでも絶体絶命の状態に追い込まれた場合である。

 

多くは、戦うよりも先に逃げるほうを選ぶ。

そのほうが簡単だし、危険が少ないからだ。

ともかく逃げれば安全が確保されることが多いからである。

だが、どうしても逃げられなくなったとき、今度は攻撃に転じる。

たとえば、ライオンが捕らえた獲物をむさぼり食っている光景は、人間から見れば残酷な攻撃に見えるが、あれは単に食事をしているだけである。

だから攻撃ではない。

しかし、ライオンの餌を誰かが横からかすめようとすると、 ライオンは餌を守ろうとして攻撃に転じる。

つまり、ライオンにとってのプライベートスペースに誰かが入ってきたときに、ライオンは逃げるか、攻撃をしかけてきたりするわけである。

 

特に初対面の人に対しては、相手に関する詳細がまだわかっていないだけに、相手に自分がどう見えるかが気になってくるというわけだ。

ことにやめたいのは、おどおどした態度をとったり、無反応でいることだ。

話しかけている人は、自分が言っていることを、こちらがどれくらい関心を持って聞いているかということをかなり気にする。

聞き手の反応を見ながら会話を進めていく。

 

もし、何の反応も示してくれなければ、暖簾(のれん)に腕押しで、話し手としては、自分が無視されているのではないかと不安にかられる。

だから、たとえ相槌(あいづち)がうまく打てなくても、関心を持って聞いているという反応を示す必要がある。

異性を前にして平常心を失うと、逆に相手は冷静になりがちだ。

そんなときは、さらに自己アピールしようとあせらず、できるだけ相手に話を向けて聞き上手に徹するようにしたい。

そのうちぺースがつかめてくるはずだ。