「顔」といっしょに覚えた「名前」は忘れにくい

人間は意味のあることは比較的すんなりと記憶できます。

たとえば、私たち日本人にとっては、西洋人の名前を覚えるより、日本人や中国人の名前を覚えるほうが簡単なはずです。

日本人や中国人の名前のほとんどは漢字で、漢字には意味があるからです。

「米山」という名前も、「米」と「山」の意味やイメージを無意識のうちに認識しているから、すんなりと記憶できるわけです。

西洋人の名前でも、カーペンター(大工)のように、単語の意味を知っているなら、比較的覚えやすいのではないでしょうか。

ところが、グウィネス・パルトロウやローワン・アトキンソンなどになると、映画に興味のない人にとっては、もはや

カタカナの無意味羅列でしかありません(ちなみに、二人とも俳優です)。

 

名前自体に意味を見つけにくい場合は、何か意味のある事柄とからめて覚えるしかなさそうです。

たとえば、前途のグウィネス・パルトロウは、「恋におちたシェイクスピア』という映画でアカデミー賞主演女優賞を受賞したという事実といっしょに覚えると、少しは印象に残るのではないでしょうか。

また、大名前といっしょにイメージを記憶させておくと、忘れにくくなります。

名前そのものにイメージがわかなくても、その人の顔や職業をできるだけ映像として覚えておくと、顔や姿から名前を思い出せることがあります。

一方で、めずらしい名前やインパクトのある名前は覚えやすく、なかなか忘れるものではありません。

 

「浮雲』などの作品で知られる小説家 二葉亭四迷は、それだけでも印象に残る風変わりな名前ですが、「くたばってしまえ」をもじってつけられたという裏話を知ると、いっそう強く頭に残ります。

また、ビートたけし率いる「たけし軍団」のメンバーは、「そのまんま東」「つまみ枝豆」「井手らっきょ」など、どれもふざけた名前ですが、不思議と覚えてしまいます。

これは、たけしさんが、弟子たちが早く名前を覚えてもらえるようにと、あえて忘れにくい名前を考えたともいわれます。

また、音楽やリズムにのせた言葉や、韻をふんだ数字は、忘れにくくなります。

その証拠に、小学生のときに暗記した「九九」はいくつになっても忘れません。

また、「干支」も独特の韻を踏んでいるので、一度覚えるとなかなか忘れないものです。

 

これは、人間の遺伝子に組み込まれた能力なのかもしれません。

言語というものが発達していなかった時代、原人たちは言葉のかわりに、声にリズムや抑揚をつけて意思の疎通を図っていたといいます。

そのため、微妙な抑揚を聞き分けたり、記憶する能力が発達したのではないかとも考えられるわけです。

また、現代のように文字が伝達の手段として普及する以前、情報はできるだけ覚えやすいように、韻をふんだ詩の形にまとめられていました。

情報は歌うように語られ、人から人へ、町から町へと伝わったといいます。

テレビやラジオから流れてくるCMソングは、まさにこのしくみを利用しているといえます。

たとえば、「カステラ|とえば「文明堂」と連想するのは、「カステラ一番……)」のメロディが頭に強く残っているからです。