人間の不安のほとんどは、妄想にすぎない
禅の創始者である達磨大師という人物がいます。
インドで生まれた人ですが、中国へ渡り、禅を広めました。
この達磨大師と慧可(えか)という弟子との間で、こんな会話が交わされたというエピソードが残っています。
慧可が達磨大師に、次のように訴えました。
「わたしの心は、たくさんの不安で乱れています。どうかわたしの心から不安を取り除いてください。そうすればわたしは、安らかな心、動じない心で修行に打ち込むことができるでしょう」
その慧可の訴えに、達磨大師が答えました。
「わかりました。それではあなたの心から不安を取り除いてあげましょう。では、まず、あなたの心から、その不安とやらを、わたしの目の前に取り出してごらんなさい。わたしにあなたの不安を見せてくれたなら、その不安を取り除いてあげましょう」
慧可は困ってしまいました。
そう言われても、心にある「不安」を取り出すことなどできません。
不安とは、心の中にあるもので、実体がないからです。
そこで意可は、「そうだったのか」と目が覚めました。
慧可は、「自分が思い悩んでいた「不安」とは、じつは自分が勝手に作り上げた妄想にすぎないのだ」と気づいたのです。
慧可は、不安で心を乱していた、これまでの自分がバカらしくなってきました。
それ以来、慧可は、動じない心で修行に励むようになったのです。
人間には、想像力があります。この想像力のあるおかげで、人間は偉大なことを成し遂げてきました。
しかし、ときに想像力は、人間に災いをもたらしてしまいます。
想像力が勝手に作り上げる「不安」という妄想に、心を乱されないよう心がければ、動じない心で生きていけます。