ロのきき方ひとつで能力まで変えられる

どうにもならない人間で、無能でダメな部下と思っていても、実は上司が知らないだけで、いろいろな潜在能力を秘めていることがある。

また、今はダメのように見えても、上司の口のきき方ひとつで部下の潜在能力を引き出せることもある。

つまり、上司が部下をダメだと思い込んでいるかぎり、部下はダメな社員で終わってしまうが、上司が期待しながら部下と接していけば、部下は期待通りの活躍をするということだ。

それを証明する実験が、アメリカのある小学校でおこなわれたことがある。

 

心理学者が教師に対して、

「子どもの知能が上がることが予想される新しいテストがありますので、やってみてはいかがですか」

と説明し、教師にテストを実施させる。

むろん、そんなテストなどあるわけがない。

日本でも一般的におこなわれているふつうの知能テストだ。

まず、一年生から六年生までの全員にふつうの知能テストを実施する。

そしてテスト結果とはまったく関係なく、無作為に二割の子どもたちを選び、

「この子たちはテストの結果、今後、知能の発達が著しく、学業においても急上昇するでしょう」

と教師に説明する。

この子どもたちを実験群という。

その八カ月後、前と同じ知能テストを、今度は全員に実施したところ、実験群と呼ばれた二割の子どもの知能指数が、ほかの子どもたちに比べて著しく上昇していることがわかった。

これを「ピグマリオン効果」と呼んでいる。ピグマリオンはギリシャ神話に必色場するキプロス島の王で、彫刻芸術に秀でていたが、象牙の女性像に憧れ、ビーナスに頼んで命を吹き込んでもらった。

象牙の像が本当の人間に変身するということから命名された。

さて、二割の実験群の子どもたちに、どうして、こうしたピグマリオン効果が生まれたのか。

その確証は定まっていないが、教師の期待が影響したのではないかと見るのが通説だ。

つまり、実験群の子どもたちに対して、心理学者の説明を信じた教師は、きっと彼らは知能が向上するだろうという期待を持って指導にあたるようになったこと。

一方、子どもたちのほうも、教師が自分に期待していることを意識的、あるいは無意識的に感じ取り、教師の期待に応えようと努力したからではないかと考えられている。

これを会社の上司と部下との関係におきかえれば、上司が部下に期待し、そして部下の能力がいずれは向上するだろうという確信を持って部下と接していけば、部下の能力も向上していくということだ。

「私は、君をもともと仕事ができる人間だと思っている」

という一言が部下を励まし、部下の思わぬ能力を引き出すことになる。

 

常々、叱るよりもほめ、期待感を示しておくのがいい。

そうすれば、ウマがあわない部下は、ウマがあう部下に、いずれは変身するということだ。