「また会いたい」と思われる別れ方をしよう

会ったあとには、必ず別れがやってくる。

しかし、別れるときの言い方で、明日につながるか、それっきりになるかという分かれ目があるように思う。

つまり、別れ方によっては、人間関係がいっそう緊密になるか、それとも、それで終わるかというちがいだ。

野球でも、明日につながる負けというのがあるが、それと同じだ。

 

うまい別れ方といえば、昔、亡くなった映画評論家の淀川長治さんは、テレビの洋画劇場では、別れ際に、「それではまたお会いいたしましょうね。さよなら、さよなら、さよなら」と、指をニギニギしながら言い、映画解説を終えていた。

40代や50代の人なら見たことがある人もいると思いますが、何げない言葉の言い回しのように思えるが、なかなか考えた言い方がされているように思う。

「お会いいたしましょうね」の「しましょう」は、英語の“Let’s go!” と同じく聞き手に対して同意を求めながら、ともに行動しましょうという言い方で、話し手の好意が感じられる。

このような気配りのあるあいさつの仕方が、人の心をつかみ、洋画劇場がロングランの番組になった秘訣だったのかもしれな い。

もし、淀川さんが「また、お会いするのですね」と言ったとしたら、番組もあまり人気が出なかったかもしれない。

この言い回しは、もう一度会うことについて、あきらめの気持ちや、うんざりした気持ちがあるという印象を与えるからだ。

義務で会わねばならないと思っている人に対しては、人はあまりいい印象を抱かない。

一方、「またお会いしなければなりませんね」というのでは、義務を押しつけているような感じで、少し不快を感じる人もいるかもしれない。

ただし、いろいろな場面を考えると、また会うことになりそうだという運命的なものを感じているといった台詞にも聞こえそうではある。

別れ際のあいさつとしては、「じゃあね」「さよなら」などの言い方がある。

しかし、そうした一般的な言葉よりも、「ごきげんよう」のほうが美しく聞こえる。

それ以上に、「また、お会いしましょう」のほうが、友好的な関係を長続きさせるように思える。

これは、「明日以降も互いに人間関係を持ちたい」という意識が芽生えるからだろう。

人間の心理は、現金なものと言うべきか、今日を最後に別れる人よりも、将来にわたっていずれ会うことが予想される人のほうに、より強い親近感を覚える。

「この人とは、これから会います」と、「この人とはこれから会いません」という二つの場合に分けて、不特定の女性に一人の男性の写真を見せ、どちらの「場合に好感が持てるかを調べたところ、70パーセントの人が、「これから会う人のほうに好感が持てる」と答えたという。

要するに、この次には必ず会えるという期待感が、相手に対して好意を抱かせることになるのだ。

電車に乗っていたら、若い男性が女性を見送ったあと、まるで映画の1シーンのように、いかにもさびしそうに肩を落として彼女が乗り込んだ電車から離れていった。

ああ、この人は別れて本当にさびしいのだなという雰囲気が誰にも伝わった。

こういう人とは、見送られた女性もまたすぐに会いたいと思うことだろう。

ただ「さよなら」を言うだけでは、人の心はつかめない。

もっと心を込めて別れる。

それが明日の人間関係を築き上げるのだと思う。