「失敗談」は会話の呼び水に使える

「人には口が一つなのに、耳が二つあるのはなぜか。それは自分が話す倍、他人の話を聞かなければならないからだ」

人に好印象を持ってもらったり、人といい関係を築きたいと考えるなら、まずはその人の話を聞くことから始めなければならない。

ところが、そのようなとき、私たちはつい「自分のことを知ってもらいたい」と思ってしまう。

それが距離感を間違えるもとになる。

 

私がよく利用するホテルのティールームで、知り合って間もないと思われる男女の客をたびたび目にすることがある。

お見合いのようなことをしているのかもしれない。

さりげなく観察していると、およそ聞き上手な男の少ないことがわかる。

多くの男性たちは、自分の仕事や趣味について話をして、「自分はどれほど価値があるか」をアピールしようとしている。

だが、頑張れば頑張るほど、女性のほうは引いているように見える。

もちろん、「相手の話を聞こう」としている男性もいる。

だが彼らは、次々と女性に質問攻撃をかけている。

「趣味は何ですか?」

「どんな仕事をしているんですか?」

などと真正面から聞かれても、長々とは語れない。

だから、すぐに会話が途絶えてしまう。

私は「ダメだな、このカップルは」と、勝手に結論づけている。

 

相手に、楽しいおしゃべり人間になってもらうには、「呼び水」が必要だ。

「そういえば、私もこんなことがあって」と、反応したくなる材料を投げてあげるのだ。

呼び水としておすすめなのが「失敗談」である。

失敗談を話すのは、自分の株を下げることにはならない。

何も「自分は仕事ができない」「自分にはろくな趣味がない」などというわけではない。

「仕事は好きで一生懸命やっていますが、昨日も上司から叱られましてね・・・」

「スキーには自信があったのに、初級者コースで見事にひっくり返っちゃって・・・」

このように自分の長所もさりげなく織り交ぜながら、ダメなところも披露できるのが失敗談だ。

こちらのダメなところを見せることで、相手もリラックスしていろいろ話をしてくれるようになる。

知り合ったばかりの男女に限らない。

上司と部下、夫婦、友人など、どんな関係においても、もっともっと「相手がしゃべりたくなる」環境をつくる必要がある。

これができないと会話下手になる。

 

外で仕事をしている夫は、家に帰って妻の話をろくに聞かない。

経験を積んだ上司は、まだ若い部下の話をろくに聞かない。

こうした積み重ねが、いつしか取り返しのつかない距離を生むのだ。

あるコンサルタントの調査によれば、折り合いの悪い上司と部下は、明らかに接触回数が少ないのだが、上司はそれに気づいていないという。

「どの部下とも同じように接している」と自分では思っていても、実際にはそうではない。

どうしても、えこひいきが出てしまうのだ。

会話が減っているということは、距離が離れていることそのもの。

相手がもっとおしゃべりしたくなるように、こちらから努力すべきである。